既成概念を超えるカメラスタンドの新機軸を打ち出す『富山製作所』

会社概要

 現会長の富山長男(とみやま たけお)氏が創業。現社長の静男氏は二代目。機動力と操作性に優れるアートスタンド「プロ」シリーズは静男氏が開発。従来のカメラスタンドの概念を打ち破る新機軸として広く知られている。ブローニーサイズフィルムを使ってパノラマ写真が撮影できるアートパノラマシリーズの製作会社としても有名。こちらは長男氏が開発したもの。(取材当時)

機能が求めるデザイン

 最初に告白しておかなければならないのだが、富山製作所といえば国産としては珍しいパノラマカメラ「アートパノラマ・シリーズ」の会社としてしか認識していなかった。しかも実に失礼なことに、古式ゆかしい町工場のイメージを勝手に抱いていたのである。

 だから本社兼工場に案内された途端、その洒落た建築に我が目を疑った。

「昨年、大幅に改築したんです。こんな時期にね・・。二階のトマソンのような扉は資材搬入用なんです。」

 と、少し照れながら話す二代目、静男氏の声に、私は、強い誇りと未来への確信を読みとった。想像とは、何かが違う。しかしながら、現在の主力製品であるアートスタンド「プロ」シリーズの実物を見せて頂いただけでは、その独創的な設計思想と、実際の使用にあたっての機動力や操作性を直感することができなかった。せいぜい、支柱が中央にない非対称構造と、独特のT字型脚部のデザインに物珍しさを覚えたくらいである。

「極端な話、お客さんの意見を完全に無視するような覚悟で、私個人の理想を追い求めた設計なんです。」

 こう言われても、まだわからない。というよりも、お客さんの意見を無視するというのは一体何事であろうか。

「現在のわが社でも、従来型のスタンドを引き続き制作していますが、これは人が使う機械だという考え方が二次的なものになっているんです。まず、大型のカメラを確実に支持するという目的が優先しているわけです。」

 まだ、ついていけない。

「スタジオで写真を撮影する場合、写真家は大型のカメラを、時によっては数台の大型カメラを自由自在に扱わなければなりません。その時、写真家はどのように身体を動かすのが合理的か、をまず考えたのです。」

 少し見えてきた。つまり、カメラスタンドの理想とは、最小限の力でカメラを上下左右に移動し、即座に固定できること。そしてさらに、最小限の身体の動きでカメラまわりの全ての操作が可能になることである。しかし、従来型のそれは、まずカメラを確実に支持することが優先されているため、写真家は無駄な力と無駄な動作を要求されているということらしい。

富山静男氏プロフィール
1954年東京生まれ。自動車用品の開発設計に携わった後に、家業である富山製作所を継ぐ。アートスタンド「プロ」シリーズは氏の独創である。生産性を考慮して無駄を省く合理的な設計は、自動車用品の会社で多くを学んだという。(残ポジ、目を閉じた写真しかなくてごめんなさい。)
洒落たデザインの本社。
アートスタンド「プロ」77。カメラを載せた状態でこそ真価を発揮する。

理想を求める

 事実、大型カメラを2台搭載したアートスタンド「プロ」77Sを実際に扱ってみると、カメラの移動は指先一つでできる軽快感であり、思うところで即座に固定し、あと数センチ数ミリといった微調整も自在である。カメラとカメラの間に支柱がないため、2台のカメラを瞬時に切り換えられる。しかも、脚部はT字型のため足元が十分広く、レンズまわりの操作も極めてスムーズにであり、ストッパーを操作する際の片足立ちも安心かつスピーディ。重量級のスタンドである事実を忘れてしまいそうになる。

「理想を追求するために、従来型のさまざまなノウハウを完全に捨てることが必要でした。お客さんの意見を無視するというのはつまりそういうことでして、発売を開始した当初はなかなか受け入れられなかったこともありました。しかし、このデザインはカメラスタンドの新しいスタンダードになりつつあることは確かです。」

 アートスタンド「プロ」シリーズは4機種。従来型の鋳物の脚部に丸い鉄柱を建てたようなイメージのスタンドに比べると、全く異質な感じさえ受ける。とすれば、固定化した既成概念を引きずった場合、この新しさは受け入れがたいものだったかもしれない。そして、このデザインこそが可能にした機動力と操作性は、実際に使ってみなければわからないものだったかもしれない。しかし氏の理想の正しさは、現在、アートスタンド「プロ」シリーズを使って仕事をしている多くのプロによって証明され、既成事実となりえたのである。氏の声に感じた誇りと自信は、おそらく自らの理想追求に対する情熱によって裏打ちされているのであろう。

「量産したり生産性を向上するために、徹底して無駄を省く指向は、自動車用品の設計から多くを学びました。それぞれのパーツもできるだけ共有化していますから、使用条件の変更や特殊な要求にも対応できることも自慢の一つです。」

足元の広さと、カメラ移動の軽快感は群を抜く。る。
共有性豊かなパーツたちが、整然と仕上げを待つ。
見上げるほどの高い天井を持つ工場。

独創を引き継ぐ

 アートスタンドミニシリーズは従来型だが、その原型は、現会長の長男氏が開発したものである。'63年のこと。写真館の人の要望がきっかけだったというが、実にそのスタンドこそが国内初であったのだ。聞けば、'55年に量産を開始したトミービューカメラ、'57年のアートビューカメラ、'62年のTS4眼カメラ、'78年以降にシリーズ化されるアートパノラマも、全てが長男氏の独創的な発想が生み出したものである。

「それまではさ、木製のカメラしかなくって、雨の日に使うとガタついちゃってね、ホルダーが入らないんだ。だから金属製のトミービューを作った。キャビネ判。これは売れたねぇ。アートビューは国内初の4×5サイズ。それからTS4眼カメラってのは、ポラロイドのフィルムを使って証明写真を撮るやつ。レンズが4個ついているから4枚同時に撮れる。後で、いろいろなメーカーが作るようになったけどね。うちがオリジナル。フィルムの幅が長辺で12.5センチしかない4×5のカメラを使って17センチ幅のパノラマ写真が撮れるアートパノラマホルダーも、うちが最初。」

 何でも作ってしまうのである、この人は。しかも、誰も考えつかないようなものばかり。後から考えれば普通にみえるかもしれないが、一番最初にそれをやってしまうのは、やはり普通の人にはできない偉業である。今年、81歳。

 そしてこの独創性は、「お父さんの言うことは、あまり真に受けちゃいけませんよ。」などと語る静男氏に、実に正しく受け継がれている。恐ろしい人たちである。

アートパノラマ170。
創業者である長男氏。
歴代の製品たちのカタログ。
24センチ幅のパノラマ撮影ができるアートパノラマ240。