承前。

中国のお墓が日本のそれと大きく違うのは、「先祖代々の墓」、つまり『家族墓』ではないことです。

基本的に、一つのお墓には夫婦二人の遺骨が入ります。お墓の中にお骨を入れる部分を「カロート(納骨棺)」というのですが、当然ながら二つしかありません。そして、通常は夫婦いずれかが先に亡くなるわけですから、亡くなられた方だけの名前を墓石に彫ります。生きてらっしゃる方は、空白になっています。

夫婦の墓は、基本的にその子供たちが建てます。子供がいない場合は、親族が建てるようです。不幸なことに、子供の方が親よりも先に亡くなった場合は、親が建てます。よく知られているよう、中国では一人っ子政策が長く続きましたから、さまざまな点において子供世代の負担はどんどん膨れ上がるはずです。ですから、この方式が果してどこまで続けられるのか? は、誰も知りません。
少し違う視点でいうと、中国ではお墓の土地も国有地であって、「国から借りている」建前です。これは埋葬時からの20年契約で、21年目に見直されるのだとか。その時がきたら、その時に考える、ということなのでしょう。

ちなみに、日本の家族墓はだいたい明治以降に広まったもののようです。江戸時代の江戸周辺は、個人墓(土葬)が多いそうです。
また、「永代供養」というのは亡くなった人の魂的にはなんとなく永遠に安心な感じではあるのですが、現実的には次世代の状況や負担をまるきり考えていないシステムともいえそうです。何がよくて、何が悪いということではないのですが。



夫婦ともども亡くなられた「完成形」です。右側上には生年、下には没年。左下には、「众孝子女敬立」とあり、「孝行な子供たちが立てましたよ」とあります。これは決まり文句でもありますが、少しずつアレンジしたものもあります。


カロートは二つに分かれています。仕切りがあるのはなぜ? と聞けば、「あの世でもべったり一緒だったら疲れる」とかなんとか。ま、冗談なんでしょうが。


これは未だ使われていません。ハート二つは、現代的な意匠なのでしょうか?


母親が先に亡くなられ、父親はご健在のケース。


一人墓の例。1965年生まれで、2015年没ですから、享年50。「外甥女敬立」とあり、姪が立てたものと思います。生涯独身だったのかな?


珍しい家族墓の例(未使用)。かなり大きな面積を占有しています。あまり人気はないらしいです。


土葬のお墓。こんもり盛り上がっている下にご遺体があります。この地にもともとあったお墓なので動かせず、残っているそうです。


軍人(国民革命軍?)のお墓は別に扱われています。


現時点では未だ1つだけ。


お墓の裏側に記された熟語(?)。どんな意味なんでしょう? 他のお墓にも、いろいろ彫られています。


顔写真です。どんな人だったか一目でわかります。


こんなのも。


花で飾りつけているのは、お墓参りに来ている証拠。ほったらかしのもあるのは、どこの国も同じかも。


まあ、とにかくは「写真」なわけですよ。私の関心は。
墓石に付けられた写真は、タイルで焼き付けたもので、ヨーロッパの技術らしいです。もちろん耐久性もあります。

日本の葬送関連業者でもこのタイプを販売していたりするそうですが、なかなか流行らないそうです。
私自身、1日本人として思うに、流行らない「感じ」はわかるのですが、その理由を延べよ! と言われたら、言葉に詰まります。ですので、おいおい、この理由については、ちゃんと調べていきたいと思っています。本稿は、その序章的な意味合いもあります。

ところで中国。
墓石に顔写真を付ける理由は、以下のようなものだそうです。
「孫や曾孫の世代に、自分自身の姿を伝えるため」
私自身はこの考え方を聞いて、なんだか溜飲が下がったような思いがしましたよ。


「涿州万佛霊園」はこれで終わり。次回は、この近所の「火葬炉」を訪ねます。