ニッポン写真遺産の広告

2018年7月10日の朝日新聞(夕刊)のテレビ欄に、「ニッポン写真遺産」という広告(右)がどどーん! と載っていました。

全国紙にここまで大きく掲載されるわけですから、アルバムや写真のデータ化サービスの需要がかなり認識されだしたんだなぁ、と感無量です。
「ニッポン写真遺産」はいいネーミングですね。で、右下の方に『「朝日自分史」割引サービスも!』とありますから、スキャンしたデータを使って効率的に自分史を作る、そのお手伝いを朝日新聞の元記者たちがやるのだろうなぁ、と裏読みしたりする楽しみまで提供してくださる。
しかし個人的には朝日新聞が自社で写真をスキャンするビジネスを始めたとは思えません。ですので、当該WEBサイトを軽く斜め読みましたら、なんとなく節目写真館に似ているなぁ、と感じました。本当かどうかはわかりませんが、いいタッグを組んでサービスをしていらっしゃるようです。

さて、こうしたアルバム・写真をデジタルデータ化するには、大きく次の方法があります。

  1. スマホやカメラを使って複写する
  2. 個人/業務向けのスキャナを使う
  3. 近所のカメラ店などに直接依頼する
  4. 上記のようなスキャン専門業者を使う

それぞれ一長一短があって、複写する写真の状態や量や使用目的によって、どれがよいかが決まってきますが、その話はおいおい。ここでは、4番目のスキャン専門業者のサービスについて考えてみます。

サイト内記事を読むだけでも勉強になる2社

webを使って注文を受け、アルバムや写真を段ボールに丸ごと入れて発送、中にはいっている写真を丸ごとスキャンしてデータ化、DVDなどでデータと共に返送、というのが、スキャン業者の基本的なスタイルです。

ざっと調べたところ、「節目写真館」と「メモリワン」のサイトが非常に充実していて、一通り目を通すだけで、デジタル化のなんたるか、を理解できます。「富士フイルム」も同様のサービスを行っていますが、街中にあるサービスステーション受けがメインなのかサイト内情報はあまり充実していません。
細かなサービス内容の比較はしていませんが、大差はない良質なサービスのように思います。スキャンなど写真をデータ化しているだけじゃん、と思われてはいけませんよ。あれやこれやを考えると、結構ややこしいのです。

節目写真館

節目写真館は、株式会社フォトバンクによる本サービスのブランド名。株式会社の設立は2010年で、節目写真館は2012年の設立。本社は東京台東区ですが、スキャンセンターは大阪とベトナムにあります。国内でスキャンをするより、ベトナムまで船便で送ってスキャンする方がコスト安! という衝撃の事実はさておき、ユーザー視点に立った充実のサービス内容です。

メモリワン

兵庫県伊丹市にあるオフィス二宮 合同会社が運営していて、店名がメモリワン(memori-one)とのこと。オフィス二宮の設立は1998年ですが、メモリワンのサービスは2016年からで、節目写真館の後発組といっていいのでしょう。同じスキャンサービスですから、その内容はだいたい似てきますが、保護フィルムめくり(フエルアルバムなどに使われる透明なフィルムをめくってスキャンする)など、差異化をはかっているようすも見受けられます。

どうやっているんだろう?

このようなスキャンサービスは、「大量の写真を何も考えずにスキャンし、トリミングや画質調整も自動処理」をすることで徹底的なコストダウンを計っています。試しに数枚のスキャンを自分でやってみるとわかりますが、これらの業者の価格では、一瞬でやる気を失うはずです。
ですから、担当者に何か考える要素を与えるような操作は原則不可です。特定のページだけ、特定の写真だけといったことをやってもらおうとすると、別料金がかかります。特別に大きなサイズや額入りの写真などは、基本的に不可。
「何も考えずに処理」がキモ! で、実をいうとこれが別の意味で、お客さんにとっての本質的なネックになるじゃないかな? というのは最後の方で。

エプソン GT-F740

写真について知識のある方であれば、写真やアルバムをスキャンする、といえば、家庭用のフラットベッドスキャナを想像するかもしれません。これもピンからキリまであり、業務用の超高画質のものもあります。が、しかし、基本的にアルバムのスキャンには適しません。理由は二つ、一つはアルバムや写真を全部裏返しておかなければならないことです。これが結構手間でして、アルバムは結構重いし、古いものだとバラけたりします。二つ目は、アルバムがけっこう大きいこと。つまり、スキャナの上に載せるとはみ出てしまうわけです。部分だけスキャンして回数を重ねれば対応できますが、すごい無駄な手間になります。

https://www.i2s.fr/fr/produit/copibook-open-system

なので多分こういうの。A3とかA2サイズのスキャンができるそうで、左右ページの段差も解消、さらにガラスで抑えることで、シワなどを伸ばし、複写面の水平も取れるというスグレモノ。まあ、上記の会社はこういうのを使っているのだろうなぁ、という想像にすぎませんが、それでもこれなら初期設定さえしっかりしておけば、作業をする人は何も考えずにページをめくるだけでOKです。


というわけで、スキャンサービス会社ではたいてい、アルバムはページ毎にスキャンし、写真一枚ずつにデータを切っていくような作業をしています。もちろん、ほとんどが自動化されているでしょう。

個人的に思う注意ポイント

多くの人が気にするのは「画質」で、上記のサービスでは、300dpiの通常画質と、600dpiの高画質を選択できます。それぞれのサイトに書かれている通り、通常画質だと元の写真のサイズでの印刷に対応し、高画質だと倍のサイズくらいに印刷できます。もちろん高画質の方がよいに限っていますが、実用的には通常画質で十分だと思います。ま、倍半分くらいの価格差がありますので、お財布と相談になるでしょうが。

それよりも、さまざまなオプション機能を調べて上手く活用するのがオススメ。

1)ページ全体のデータ

上のようなスキャナでページ全体をスキャンし、一枚一枚の写真を切り抜いていますから、一枚一枚の写真データの他に、ページ毎のデータも付属します(廉価サービスでは付かないことも)。実はこれがとても重要で、写真の枠外に貼ったメモや、写真のレイアウトや順番などが後からわかります。節目写真館は、アルバムの表紙も撮影してくださるそうなので、これは必ず付けておいた方がよいでしょう。

2)データに日付を入れる

写真に焼き付けられた日付を読み取り、デジタルデータのメタデータ(exif)に書き込むことができます。アルバムであれば、前後の写真を参照して日付を入れることもできるようです。メタデータに書き込まれることで、画像データを日付で検索したり、並べ替えたりできます。

3)フォルダ分け

アルバム毎や、バラバラの写真の袋ごとに、画像データをフォルダ分けできます。後々の整理には絶対必要。これがないと、バラバラの画像データの海で溺れることに。

4)インデックスデータ

画像データの一覧のデータが付きます。これをプリントすれば、写真を見直すのも楽。パソコン上で大量の写真を選ぶのは、慣れている人でもかなりストレスを感じます。全体を見て比較するには、インデックスプリントがあるのが一番。パソコンにそれなりに詳しい人なら、自分でインデックスを作ることができますが、その手間は? ということ。

5)色補正

古くて退色した写真も、まとめて色補正をしてしまう機能です。一枚毎の指定はできませんし、機械(ソフト)任せの処理ですが、相応の効果が期待できます。これも自分でやれないわけではありませんが、その手間が・・・。AI技術の発展で、この分野はどんどん自動化の機能・性能がよくなるんだろうと思います。

6)フィルムめくり

先に紹介したオプションで、フエルアルバムなどの透明フィルムを剥がしてスキャンすることで、一皮むけた画質にできます。ただ、めくることで運が悪ければ写真に傷が付く可能性があります。かなり特殊な状態だろうな、とは思いますが、傷付いたオリジナルは元に戻せませんからね。

7)スライドショーやムービー制作など

これはちょっと考えものだと思います。写真が少量ならいいですが、大量にあると見る気が失せます。たとえば1枚2秒で見るとして、100枚で3分強。玉石混淆の写真をこれだけの枚数見せられた、誰もがげんなりします。

本当に大切なのは、データ化して何をするか?

アルバムや写真をデータ化するメリットは、冒頭の朝日新聞にもあるよう、次のようなことが挙げられます。

  • 大量の写真が片づいて省スペース化できる
  • 退色などの劣化がない
  • 火事・災害などの備えになる
  • スマホなどで見ることができる
  • 子供や孫に渡せる

大変に無粋ではあるのですが、一つ一つツッコミを入れてみましょう。

・大量の写真が片づいて省スペース化できる

例えば、節目写真館では、元のアルバムは必ず返却されます。廃棄してしまった後で、やっぱり返して・・と言われたときにどうするか? ということなんだと思います。廃棄は自分の責任でね。でも、データ化していたら捨てる気になりやすいでしょ。ということですが、それでもやっぱり「物」としての記憶や思い出もありますので、なかなか簡単には割り切れないものです。あと、個人情報の漏洩的な問題も気になるといえば気になります。もっとも、これが気になるなら、スキャン業者は使わないのが一番でしょうが。

・退色などの劣化がない

デジタルデータは永遠に劣化しないことは事実ですが、ハードディスクなどは必ずいつか壊れます。DVDなどもいずれ読み取れなくなります。大切なのは、10年、20年先を見据えることです。写真は光さえあれば見ることができますが、データを見るにはパソコンとソフトが必須です。昔のビデオテープの二の舞にならないよう。
あと、退色や劣化、は「時代を経てきたことの証」ですから、それ自体に意味があります。永遠に劣化しないからいい、ということでもありません。

・火事・災害などの備えになる

ハードは壊れるが、デジタルデータをクラウドに上げておけばOK。これは確かです。今はさまざまな無料サービスも多いですから気軽に始められます。しかし、おそらくこれらのサービスはいつか、不意に終わります。サービスをやっている会社なりが、メリットがないと判断した途端に、です。そうでなければ有料サービスになります。この点、要注意。

・スマホなどで見ることができる

写真データを丸ごとスマホに移したり、クラウドに置いたりして見ることができることは確か。でも、整理しないない大量の写真を、どこからどう見るか? 誰が見てくれるか? 見せる人は楽しいかもしれませんが、見せられる方は、ほとんど苦行になりそう。

・子供や孫に渡せる

デジタルデータなら、コピーを簡単に作れますから、多くの人に分けることができます。しかし、それをもらってうれしいか? いつ見るのか? は、もらった人の判断です。DVDは中身がわからないただの円盤ですし、USBは中身を消去して再利用してしまうかもしれません。

データ化が、問題の「先送り」にならないよう!

とまあ、ずいぶんな揚げ足取りになりましたが、半分は当たっているんではないかな、と思います。
現に、某サービスの担当者の話では、お客さんの多くは、できあがったDVDをパソコンに入れてデータ化できたことを確認したらそれで安心して、それを何度も見直すことはないようです、とのこと。
これでは、元のアルバムも、デジタル化したデータも浮かばれません。

全部データにして本体を廃棄したい、という気持ちもわかりますが、ならばこそ、データ化したところでそれはもう誰も見なくなるのであれば、やっぱそれは無駄なんじゃないかな、と。
アルバムや写真を捨てることへの「後ろめたさを隠すためのデータ化」ということもあるんでしょうけれど。

実のところ、「まるごとデータ化する」の背景には、「中身を見る時間も余裕もない、見る気もしない」があるような気がします。だからこそ「何も考えずに、中身を見ることもなく、まるごとデータ化」となるのでしょう。だとすればデータ化は、さらに目の見えないところに隠すことを意味しているわけです。ますます見なくなるのは道理というもの。

本当は、アルバムをもう一度めくりなおし、残す写真とそうでない写真を分別し、たいせつな写真を少しだけ取っておく。そうしたら、自分自身が何度でも見られるだろうし、余分なお金もかかりません。もちろん、貴重なオリジナル写真は残ることになります。「オリジナル」は、いいものが少しだけあるからこそ、「価値」になるのです。

そして、こうして残ったオリジナルだけをデータ化すれば、そこには確実に写真の意味がでてきます。子供や孫に、その意味が伝われば、捨てられた写真たちも本望なのではないか。と、思う次第です。

アルバムを処分するなどの目的で丸ごとデータ化をするのであれば、デジタルデータができた後でどうするか? を少し念頭において作業を進めれば、よりよい結果を得られることでしょう。