ありえない照明機材を具現化し続ける『写真電気工業』

会社概要

通称はSD。1971(昭和46)年にトーマスバルカーストロボの修理店として神戸に創業。後、銀座に移り、現在は京橋に店舗を構える。自社開発の『RIFA(リファー)』は、ハロゲンランプを使用しながらも、極めてソフトな光を得ることができる新しい照明機材として、コマーシャル、営業写真館、TV、映画といった業界の垣根を超えて愛用されている。最近ではデジタルカメラでの撮影用に使われることが多くなっているという。世界各国への輸出も増加中。大型ストロボも自社開発のもので、熱烈な愛用者が多い。

意外なこと

これまで幾度か仕事でお世話になった経緯があるだけでなく、同じ四国の出身で、しかも同じように電力会社に勤めた経験を持つ寺下社長には、普通以上の親近感を勝手に抱いていた。関西弁のイントネーションを残す話口にも、どことはなしに懐かしさを覚え、氏と私が心の奥底のどこかで繋がっているような気にもなっていたのである。

ところが、取材を始めて直ぐに、これは私の勝手な思い込みに過ぎなかったことを、強く感じさせるハメに。

「私はね、職人って呼ばれるのが大嫌いなんですなぁ」

これである。別に職人呼ばわりしたつもりはないが、本連載の流れは確かにそうなっていて、だから放っておけば、きっと職人のように描かれてしまうことを危惧されてのことであろう。

「おそらく多くの、いやほとんどの人が、私のことを誤解しているように思うんです。今、私が一番関心を寄せているのは何だか、久門さん分かりますか?」

そう問われても困る。最初に話の腰が折られているわけであるから、答える術もない。

「この会社の行くべき先のことなんですわ」

ほほう、である。どう話を続ければよいのか、ますます判らなくなってしまった。

私なりに解けば、こうなる。氏は、実をいうと写真が好きではない。自分で写真を楽しんで撮るということは、一切ない。だから、氏の仕事とは、自分が欲しいと思えるモノを作り、それを商品化することではない。起点が違うというとまだ美しいが、泥臭く言えば生まれが違うのである。

広告写真が今よりも何倍かの力強さを持ち、若手写真家が続々と登場しては新しい境地を開拓していた70年代。その華やかな撮影現場を、照明機材を通して舞台裏からつぶさに観察し続けてきた氏であるが、その印象を聞けば、

「ああ、なんという詰まらん世界かと・・・」

こう断じられては笑うしかない。もちろん、広告写真を蔑んでいるのではない。そうではなくて、おそらくは私自身を含め多くの写真家が、広告写真の華やかな世界に幻惑されるように、写真の門を叩いたはずなのである。が、氏の素質はそれを清しとしない。しなかったし、これから先もしないであろう。しかし、不思議なのは、氏の創案した照明機材は、それを使う全ての人が十分なる満足を得ているという事実である。

言わせてもらえば、確信犯的な照明機材屋なのである。そういう以外に、私には言葉の持ち合わせがない。

入り口の右手には、さまざまな種類の照明機材が(雑然と?)並ぶ。
寺下 豊氏プロフィール
 1926(大正15年)香川県小豆島生まれ。関西電力に入社し、配電線の6600V昇圧化に携わる。1971年に退社し、ストロボ修理専門店として、写真電気工業を創業。法人化は1975年。生涯を通じて『RIFA』を開発したことだけは自慢できる、と語る控えめな表現の裏には、大型ストロボを含め、まったく新しい撮影用照明機材を自らが発想し、具現化してきた強い自信を感じることができる。
 デジタルカメラ用に多用されだしたキャッチRIFA。
30センチ角と小型だが小物撮影から人物撮影にまで使用できる。スタンドは別売。
京橋の警察博物館の裏手にある写真電気工業。
ガラス戸を開けると、そこには各種ライトボックスが・・・。

照明機材を通して見る写真業界

写真電気工業で扱っている照明機材の多くは、寺下社長の頭脳が生み出したものである。そのいずれもが、今となっては当たり前のように使われているけれど、開発~発売当初にしてみれば、世界中どこを探してもない、全く新しい照明機材なのであった。

「自分で旋盤回して、試作品を作るんです。図面は下手やし、工作はもっと下手。しかしね、他に似たようなモノすらないわけですから、職人さんに判ってもらうためにも、第1号は自分で作らんとならんのです。それを職人さんに見せて、頭の中に描いてもらうことができたら、一を以て万を察すという具合に、本当に立派なモノができる」

小型で発光効率がよく耐久性もあるが、なにぶん輝度が高く非常な高温になるため、撮影用には使えないとされていたハロゲンランプを、見事なまでの使いやすさと、しかも驚くほど柔らかい影を得られる照明器具『RIFA』として完成し世に問うたのも、社長にのみなせる技であったろう。熱をできるだけ出さない構造はいうに及ばず、反射布やディフューザーには燃えない素材を開発、傘のように簡単に開閉でき、芯からコードを抜くという発想も、全てオリジナルである。現在では、大きさの異なるタイプが6種。アメリカでの特許も獲得し、ビデオ用照明機材の会社として知られるローウェルも、この特許を使って製品を作っているのだとか。

「一番最初にこれを買ってくれたのは、NHKでしたな。NHKというと保守的なイメージがするかもしれませんが、ビデオや映画の照明屋さんていうのは、新しい機材に貪欲。出来上がった製品を持っていくんでは遅いんです。構想中の、まだちゃんとできあがっていないモノを持っていくと、あれやこれやとアイデアを出してくれると同時に、非常に喜んでくれるんですなぁ。これが反対に、スチルの写真家は、新しいモノにとかく批判的で、そんなモンどうやって使うんかいな、と来る。環境がまるで違うんですなぁ。」

耳の痛い話、ではある。が、確かにそういう頭の固さが、私たちにはあるのだろう。そしてお次も頭の痛くなる話。

「写真というても、コマーシャルと営業写真館の二つが大きく別れていますな。私なんぞには判らんのですが、この二つがお互いにお互いを理解しあっていないのです。どちらも、一生懸命仕事に取り組んでいる立派な人たちなのに、お互いの仕事を認め合おうとせんのんですなぁ。」

最後にお口なおしを一つ。今まで作ってこられた製品の中で、一番の駄作(?)は何でしょうと聞く。

「あんまりありませんなぁ・・・」と社長。それを片側で聞いていた娘さん「そんなことないやん。売れんモンばっかりつくって・・・」。それを聞いていたスタッフの伊藤さん「社長、レフ・レインコートは最低でしたねぇ。IPPFで発表後、ほとんど全ての写真雑誌が取り上げてくれたんですが、ほとんど売れませんでした。」

思いだしました。完全防水、撥水性に優れた白いレインコート。両手を広げれば、それだけで人間レフ板になれるってのが。IPPF93でこれを試着していた社長。レフ板の効果はレインコートよりも、おでこの反射の方が際立っていたような・・・。

ストロボなどを4台連結できるアダプター。

現サイトはこちら

在庫品が気持ちよく並ぶコーナー。機材の収納の良さが判る。
「何のプロかって聞かれると、梱包のプロですね」
キャッチRIFAは折り畳んで収納できる。
小型で高性能なハロゲンランプ(キャッチRIFA/300W)。
ハロゲンライトを用いたスポットライト。
現在開発中の新製品。はて、何ができるのか?