大中判カメラを通して人と人の出会いを創造する『ワイズクリエイト』

会社概要

創業してから未だ8カ月(取材時)。従業員は木戸氏を含めて3人。一言でいうなら大中版カメラ専門ショップとなるが、カメラやレンズなどのハードウェアの販売に止まらず、プロとアマチュア、カメラマンとクライアント、製造業者とユーザーといった、さまざまな人々の出会いをコーディネートすることで、大中判写真の深い魅力を広めることを目指している。いわば、大中判カメラの「ソフトウェア」を売る会社である。

人と人を結ぶ

「いやぁ、どうして私がと思いましたよ。今まで取り上げて来られたのは皆、物を作っている人や会社ばかりでしょう。うちはぜんぜん違いますからねぇ。大丈夫ですか? 本当にいいんですか?」

 もちろん、大丈夫ですよ、と答えるしかないわけだが、正直なところワイズクリエイトを私が知ったのは、オリジナルの4×5判ピンホールカメラや6×9判ハンディカメラを通してなのであった。加えるなら、ホームページに紹介されている4×5/5×7判変換アダプター、大判レンズ用絞りシール、スカート式の冠布、標準反射板と倍率計と物差しとハレ切りなどなどを一つにまとめたマルチボードといったオリジナル製品のユニークな発想に魅かれたこともある。

 だから、物を作っている会社ではないと切り出されて、少し戸惑ったことは確か。しかし、機材の販売だけを行っているのでもないらしい。何をやっている会社なのか? あるいは、これから何を始めようとしている会社なのか? 話はまず、そこから始める必要があるだろう。なにしろ、昨年の暮れに創業したばかりなのだから。

「一般的なカメラ店では35ミリ判が主力ですよね。大判カメラや中判カメラはどうしても店の奥の方に置かれるのが実情です。ならば、大中判カメラを前面に押し出した店舗があっていいのではないか。」

 発想の転換といえばそうではあるが、そうそう簡単に実現しはしないだろうと、多くの人は思うはずだ。

「たとえば、大中判カメラを買ったはいいが、使い方がよくわからなかったりして、押し入れの中にしまいっ放しにしているようなアマチュアって、かなり多いのではないでしょうか。そんな人たちに、もう一度、大中判カメラの魅力を再発見してもらいたいのです。そのために、定例の『ワイズ大中判写真の会』のほかに、各メーカーの撮影会や勉強会などのメニューをかなり充実させました。航空写真家として知られる芥川善行さんや、中村文夫さん、山崎正路さんなど十数人の先生方にもお願いしています。」

 幸いなるかな、木戸氏には長年勤めた駒村商会で獲得した広く多方面にわたる人間関係があった。ワイズクリエイトを立ち上げるための準備段階の時点で作成したデータベースには、3500人のデータが納められていたという。もちろん、この中にはプロカメラマンがおり、写真関係各メーカーの担当者がおり、カメラの制作に携わる人々がおり、さまざまな職種の顧客が入っているわけだ。

 ここに一人のプロカメラマンがいて、その隣にアマチュアがいたとしよう。そのままでは何も起こらない。しかし、この二人を結びつけるとどうなるか。プロの豊富な知識をアマチュアに伝えることができる。ここに一つのビジネスが生まれる。あるいは、なんとなくこんなカメラが欲しいなと思うユーザーがいて、その隣にカメラなどの工作技術をもった人がいたとするなら、ユーザーが思い描く理想的なカメラを作るビジネスが成立する。問題は、こうした人と人の出会いをどう演出し実現してくかという、コーディネート能力ということになろうか。だから、機材の委託販売、写真集作り、レンタルフォト、撮影業務、現像受け付けなどなど、仕事はあらゆる方面に広がっていく。

「こうした小さい会社を起こしてみて、初めて、ユーザーに近づいて生の声を聞けるようになりました。もちろん駒村商会にいた頃も、お客さんの声をできるだけ直接聞くように勤めていましたし、ある程度はそれができているようなつもりではあったのですが、やはりわかっていない部分は多かった。」
 現在、『ワイズ大中判写真の会』には100人以上の会員がおり、毎月数回ペースでの撮影会や勉強会を重ねているのだそうだが、ここでは気負わない意見交換ができるため常に新しい発見があるという。時には、大手メーカーの担当者が情報を集めるために参加することも。

 つまり、先に紹介したユニークなオリジナル商品の多くは、こうした場所でのユーザーの生の声がもとになって生まれたというわけだ。生の声を聞く。それを実現するために最適な専門家にそれを伝える。絶妙に人と人をつなぐ。これが木戸氏の技なのである。

木戸嘉一氏プロフィール
 1952年、東京都生まれ。日本大学文理学部の心理学科でマーケティングを学ぶ。とはいえ、多くの時間をアルバイトに費やす普通の学生だったとか。'57年、駒村商会に入社し、営業部に23年間勤務。ホースマンをメインにした、大中判カメラの営業企画に携わる。去年暮れの11月に退社し、翌月4日にワイズクリエイトを創業。退社直前は、東京支店長。他に大中判普及協会の企画委員も勤めていた。
ショップは人形町駅と三越前駅のちょうど中間にある。
場所は少し分かりにくい。この看板(?)を目印に。
リラックスできる店内。
機材の委託販売も行えば、写真展も開催する。なんでもありである。
作品展示スペース。

趣味の世界

「あとね、自分の財布でものごとを計っていけないことを痛感しましたね。」

 どういうことかというと、お客さんが購入するだろうと期待する価格には、あらかじめ自分の懐事情が前提となっているのが普通。しかし、現実には、想像を裏切るくらい高価な機材を購入されるお客さんが少なくないのだそう。

「大型カメラとデジタルカメラバックをポンと買うアマチュアの方がいれば、スタジオ用カメラスタンドに大型ストロボ一式をまとめて購入した女性もいました。」
 一体、何に使うのだろうと、多くのプロは思うに違いない。そしてこうも思うのではないだろうか。アマチュアは機材が好きだからねぇ、と。あるいは、お金ってあるところにはあるんだよね、などと。

 確かにそうかもしれないが、こうした考え方こそが自分の財布で物事を考えているに過ぎないだろう。いかなるアマチュアも、写真が上手になりたいと心底思っていて、そのための手段の一つが機材購入なのである。考えてみれば、プロだって同じ。しかし、プロは投資と回収を天秤にかける。アマチュアにはそれがない。趣味の世界の奥深さは、こうした部分にもあるはずだ。しかし、そうはいっても、ため息がでるほどうらやましい話ではあるが。

「面白いのはね、どんなお客さんも写真を撮る時にはとても素直になること。大企業の重役のような、会社にいる時には大きな椅子に座ってムッとしているように見える人でも、撮影会では『先生、これはどうすればいいんですか~?』なんてプロに訪ねたりするわけです。そういえば、泊まり掛けの撮影会で『ホテルの部屋が気に入らん。変えたらんかい!』なんて言う人が、翌日の撮影ではにこにこしながら写真を撮っている。趣味というのはそういうものなんでしょうが、なんだか可笑しくて。』

 正月とゴールデンウィークに数日間休みをとっただけという木戸氏の趣味は、実をいうと、この仕事なのかもしれない。なんだか、とても楽しそうだから。

さまざまなバリエーションを楽しめるワイズ69ハンディカメラ。
オリジナル製品のピンホールカメラや大判カメラ用アクセサリ。
フィルム現像料金表。(今見ると、たいへん安価。時代は変わった。)