水中撮影機材の世界のトップブランド『SEA&SEA』

会社概要

 山口正興氏と実弟正輝氏が設立。学生時代よりスキューバダイビングにはまっていた二人は、世界初の水中ストロボを独自開発。当初は一台一台手作りだったというが、これが大ヒット。'72年に法人化し、量産体制を整える。後、水中カメラ用ハウジングやムービー撮影用の水中ライト、さらにはオリジナルカメラの開発を進め、現在、水中撮影機材では世界最大のシェアを誇る。(取材当時)

無重力の世界

 宇宙ではなく、水中の話。
 読者の中にも、スキューバダイビングを趣味にしている方は少なくないと思う。趣味とまではいかなくても、体験ダイビングの経験はあるとか、ライセンスだけは持っているんだけど、という方はそれなりの数になるに違いない。かくいう私もペーパーダイバー(?)であったりする。

 これには、やや複雑な(?)事情があって、恥ずかしながら告白すると、私、酸素の消費量が多いのである。だから、他の皆はまだまだ潜れるのに、私だけが時間切れ。皆の大迷惑。で、ペーパーダイバー。そんな話を社長に向けると・・。

「あはは、それは体質ではなくて、慣れの問題ですよ。酸素を消費しない潜り方も教えてあげますよ。」

 福音である。

「だいたい10本も潜ったら大丈夫。その手前で止めちゃったんだねぇ。もったいない。また、始めましょうよ。」

 正直、迷う。しかし、時間がない。先立つものもない。

「日本のダイビング文化というのは、欧米とは少し違っていましてね。日本では若い人が中心なのに対し、欧米では40~50代がメイン。大人の、お金と時間の使い方が違うんです。日本の大人と言えば、仕事三昧。それからお酒に車にゴルフといったところでしょうか。お酒を少し減らせばいいんですよ。」

 痛いところである。しかし、お金と時間の使い方を、もう一度考え直すべき年齢に差しかかっているのは確かなのだ。私個人としてだけでなく、社会全体の問題としてもそうに違いない。

水圧試験器。
川口正興氏プロフィール
 '44年、新宿生まれ。高校一年の時、友人に誘われ佐渡の海に潜ったのが、ことの始まり。スキューバダイビングにアマチュア無線といった「遊び」に明け暮れた高校時代だったとか。獨協大学経済学部卒、イトーヨーカドーを経て、SEA&SEAを設立。
京浜東北線川口駅近くにある本社。
 初期型の水中ストロボ「YS32」(左)とブロニカ用ハウジング(右)。

遊びから仕事へ

「もう30年以上も前の話ですね。当時のダイビングというと、魚介類を捕るのが目的でね。まあ、私たちもお金がなかったから。でも、やはり漁師さんの怒りを買った。それからかな、写真は。捕るのではなくて、撮る方にね。」

 食材の捕獲から、生態の鑑賞へ。文化的成熟とは、まさにこれを指すに違いない。そして次のステップは、水中の生き物たちと友達になることだと、氏は語る。

「カメラはニコノス。でね、暗い場所で撮影するには、水中用のフラッシュバルブを使うしかなかったんです。陸上でもそうですが、フラッシュは使い捨て。1個50円もしましたから、フィルム1本撮影するともう馬鹿にならない金額になりました。」

 経済学部卒の氏のもう一つの趣味は、アマチュア無線。イトーヨーカドーでは家電売り場で働いていたという。

「ストロボの中身はサンパックに協力してもらって、水中ストロボを開発したのです。世界初。ハウジングは弟が設計しました。FRP製の手作りでね、一日に9台が限界。それでも、充電式で100枚くらいは撮れましたからね。評判が評判を呼んで、売れに売れました。」

 現在も製造されている水中ストロボ「YS30」の前身の話である。社にはその一台が大切に保管されていて、黄色いボディの前面には、「YELLOW-SUB-32」と彫り込まれている。もしや、ビートルズのイエローサブマリン?

「はは、私たちは世代はね・・」

 当たりました。

「それから会社を興して量産体制に入ったわけです。そして、次はブロニカ用の水中ハウジング、そして8ミリムービー用のハウジングね。次がニコンF用、それからビデオやムービー用の水中ライト。80年になって、オリジナルの水中カメラを作りました。110サイズのカメラでしたが、それでやっと水中カメラメーカーになったわけです。」

 まさに、とんとん拍子。そして、今では水中撮影用品メーカーとして世界シェア№1。カリフォルニアにも支社を持つ。国内の社員は45人。カリフォルニアには18人。60ページに及ぶ現在のカタログには、各種水中撮影用品以外にも、ダイバーウォッチ、ナイフ、ジャケットやブーツなどなど、さまざまなダイビンググッズも掲載されている。

「この会社でやっているのは、設計開発と販売だけ。製造は全て外注です。現在の経済状態などを考えると、それもよかったのでしょうね。」
 うらやましい、としかいいようがない。

機材内部の温度上昇を試験しているところ、だとか。
社長たちが使うダイビング用のタンク。
社員のロッカールームにはウェットスーツが・・。
社内のようす。

文化というステージに向けて

「これからは水中写真のソフトを充実することが目標ですね。既に、ダイビングショップと協力して水中写真の研修センターの建設が進んでいます。伊豆、沖縄、サイパン、マレーシアなんかにね。ここでは撮影の技術的なノウハウだけでなく、水中生物の生態も学べるようにします。そのために、私たち自身も勉強している最中なんです。」

 ただ単に美しいとか神秘的と感じるのと、水中に棲む生物たちの生きざまを知ることは違う。そして、こうした知識に立脚した上で感じる美しさや神秘からは、人生や自然の豊かさとその本質を学ぶことができよう。ここには、ただ楽しいからという理由で始められる趣味を超えた文化がある。

「20年前、真鶴で弟と潜っていてね。僕は先に上がったのだけど、弟がなかなか上がって来なかったことがあって、その時に感じた心配や不安は今でも忘れませんね。それからは二人一緒には潜らない。飛行機にも一緒には乗らない。」

 お洒落で気楽なように見えるダイビングだけれども、相手は自然である。いざとなれば即座に死と隣り合わせになるという現実。これを要に据えてこその文化的成熟といっていいかもしれない。

 私もまた始め直してみようか。

オリジナルのハウジング。左から、NX-100、NX-5、NX-80。
MX-10を使った水中写真入門ビデオ。VHS。
メンテナンス中のNX-80。