これが難波のてんやわんや?『タクプロジェクト』
会社概要
'70年頃、タクフォトプランとして設立。法人化に伴いタクプロジェクトに改称したのが25年くらい前。現在の従業員は「10人くらいにしといてや」とは、これいかに。航空撮影用カメラの会社かと思いきや、さにあらず。4×5全周魚眼カメラ、ポラボディカメラなどなどオリジナルカメラのてんこもり。(取材当時)
これが大阪のノリ?
そもそもからして、初めてお会いして手渡された名刺には、社名と住所、それから代表取締役としか書かれていないのだった。肝心要の名前のない名刺を手渡されて、何とツッコメばよいのか? 素直に、名刺にお名前がないのですが、と問えば、こうである。
「ちゃんと書いてある。銀色のんをコインで擦るんや。」
早速擦ってみると、やっと出てきた。松田卓士。そして、「あたり」!? 一応、仕事の取材であるから、「あたり」と出てきても嬉しがったりはせず、名刺を横に置こうとすると・・。
「あたり。よかったなぁ。これあげる。20年くらい前に作ったやつ。」
メモ帳である。しかし、各ページに印刷されたイラストを見て思わず笑いがこみ上げる。ちょっとエッチなパラパラ漫画付き。
「これもわしの発案。20年前につくったんやからね。これを。」
と、氏は少し自慢げである。ところで、会社を興したのはいつでしょうと問えば、こう返ってきた。
「25年くらい前やから、1975年頃か?」
くらい? 頃? まあ、よしとしようか。

'40年福岡生まれ。20歳の頃、大阪に出、営業写真館で2年勤めた後、フリー写真家として独立。航空写真用カメラ『エアロタク』シリーズの設計を手がけたのを初めとし、手作りカメラ同好会の雄としても知られる。なんだか、よくわからない人である。

奇妙奇天烈なオリジナルカメラ群
タクプロジェクトを知ったのは、4×5判の航空撮影用カメラ『エアロタク45S』、そして中判フィルムを用いたラジコン専用の航空撮影用カメラ『エアロタク68-CⅡ』を通してである。てっきり、航空写真用カメラの専門会社かと信じきっていた。
「航空写真といっても、これは斜めに撮るカメラ。30年くらい前やったかなぁ。飛行機に乗って写真を撮る仕事が入ったんやけど、当時市販されていた航空写真用カメラは50万円もした。作り自体はいたって簡単やったから、自分で作ろ思たのが始まり。」
つまりは自分専用のカメラとして、エアロタクは誕生したわけである。
「で、売れるかなと思て全国販売を始めたのが、あれいつ頃やったかなぁ。25年くらい前やったかなぁ。」
正確にいつのことだったかは、もはや問い正す気にもならない。
「初期型はフード部が角形でレンズ交換できる機種。このフードは余分な光をカットするというよりも、飛行機の窓からレンズを突き出して撮影する時に保護するためのもの。でも結局、レンズは135ミリオンリーやったんで、次の機種はフード部を丸形にして、レンズ交換できんようにしたんやね。で、今の3型は丸型でレンズ交換できるタイプ。」
ボディはアルミの鋳物。それを旋盤で加工するまでは外注。残りの仕上げと組み立ては氏が行う。設計ももちろん氏である。が、自作カメラへの偏執狂的なこだわりは、まるで感じない。
「ウィンドーに飾ってあるカメラ見た?」
と言われて、改めてショップの外からウィンドーを眺めてみる。新品のカメラあり、中古の出物あり、といった中にこれぞ奇想天外としかいいようのないカメラの一群が所狭しと並んでいる。
阪神タイガースの野球帽でできたアオリができるカメラ。子供が遊ぶブロックLEGO、マカロニ、太鼓、ウィスキーの樽などなど、ありとあらゆる素材でできたカメラが並ぶ。中でも眼を引くのは、ビニル袋で厳重に密閉されたスルメ製のカメラ。とにかく臭いが強烈なのだとか・・。もちろん、全て実写可能である。そしてそれぞれの値札には、時価と表示されている。売れましたか? と少し怖い質問を向けてみると・・。
「売れたら、新しいのを作り直さんとあかんから・・」
結局は売りたくないのであろう。そしてこうした冗談みたいなカメラたちの横に、重厚感のあるフィッシュアイタク45が鎮座している。ロシアン製ゾディアック30ミリレンズを装着し、4×5フィルムを使った全周魚眼での撮影が可能という。
「対角線魚眼の4×5カメラは、他の機種であるんやけど、全周魚眼はない。せやから作ってみた。これは大手建設会社のドーム建設の際に、完成予想図の作成を目的とした撮影にも使われた。」
どこまでが冗談で、どこからが真面目なのだか、さっぱりわからない。






どれもこれもが普通じゃない
「マルチイメージスライドって知ってます?」
私は知らなかったのだけれども、写真のスライドを何枚もシームレスに並べて上映するシステムだそうで、ディゾルブ効果を得たり、オーディオのステレオ音響とも連動させることができるのだとか。20年ほど前には、大手企業やホテルのイベントなどで引っ張りだこだったという。無論、現在ではこうした技術はコンピュータ技術にお株を奪われているが・・・。
そしてもう一つ。今年の1月に作成されたA4判のパンフレットのタイトルに驚いた。『東京大学生産技術研究所・空撮災害状況把握システム』である。
「去年、6カ月くらいかけて作った。ビデオカメラとデジタルカメラがそれぞれ1台、銀塩スチルカメラを2台搭載して、気球で空に浮かべて撮影するわけ。気球は、せやなぁ、4~5メートルくらいの大きさやったかなぁ。」
ついでに後二つ。一つはポラボディ。ペンタックス67、645、そして35ミリ版、他にニコン、コンタックスの改造カメラである。カメラの背蓋のあたりを大幅に改造し、ポラホルダーを装着。このため、フィルム面にダイレクトに露出できるため、非常にシャープな画像を得られるという。全て氏が改造したもの。
「一点一点現物合わせで作るんが好きなんやね。」
そして最後は『マイスタジオ』。これは主にデジタルカメラを対象とした製品で、誰にでも簡単に小物の撮影ができる、簡易ライティングボックスといったもの。
「これは結構売れているね」
一体全体・・・。私は何の取材のためにわざわざ大阪まで来たのか? 困った困った。


