理想的な新光源、人工太陽照明を開発した『セリック』

会社概要

  写真業界の一部の人々には、太陽光に極めて近い連続光を人工的に作り出す照明装置「ソーラックス」の開発、製造、販売で知られる。フィルムや各種映像機器メーカーの他、視覚効果に関わる数多くの企業などで、色彩などの基準となる光として活用されている。しかし、意外というか興味深いというか、他に、魚類整列機、ミートクリーナ、車両ナンバー読み取り装置などという製品も・・・。。(取材当時)

「ソーラックス」の謎

 その理由は、詳しい話を伺った後になってようやく理解できるのだが、挨拶を終えた直後に「ソーラックス」の製品パンフレットに印刷された次のような文章を、社長である佐藤氏自らが音読し始めたのには、正直なところ、一瞬、引いてしまった私である。
曰く、
「40億年前、太陽エネルギによって地球上に生命が誕生した。生命は数々の試練をのりこえ、さまざまな環境に適応しながら進化した・・・云々。」

 NHK教育番組ではない。ましてや、生物学の授業でもない。

 しかし、まずは人工太陽照明「ソーラックス」について理解を深めておく必要がある。

 ご承知の通り、視覚効果の基準となる光源の代表はデーライトである。そしてデーライトの写真用照明具と言えば、まずストロボである。しかしストロボは閃光であって、目に見える連続光ではない。ライティングに関する知識のある方なら、即座にHMIを思いついただろう。メタルハライドランプと呼ばれる放電管の一種である。ただ、HMIは交流電源を用いているため厳密な意味での連続光ではなく、しかも色彩再現などに影響を及ぼす輝線スペクトルを含んでいる。

 ここにきてやっと、「ソーラックス」とは何ぞや? という話題に移ることができる。「ソーラックス」に用いられているのは、キセノンランプである。うむむ? と思われた方は通ですね。じゃなくてプロなら常識、ストロボに使われている放電管ですね。

 面白いというか、興味深いというか、すごいというか、感想は人それぞれだろうけれど、「ソーラックス」は、このキセノンランプ内で直流放電を起こして発光する。直流による連続放電だから、完全な連続光が得られる。しかも、特殊な専用フィルターを用いることで、可視光線だけでなく紫外線から赤外線までも、ほぼ太陽光と同じ分光特性をもつ光になる。

 要するに「ソーラックス」とは、コンセント一つあれば、夜だろうが雨だろうが、いつでもどこでも太陽の光そのものを得られる照明具なのである。

 写真撮影用として気になる明るさは、というと、同一消費電力の白熱電球の約2倍。100Wと500ワットの2機種が用意されている。加えて、500Wタイプには、シンクロX接点に同調して、光量が4倍になる増光ブースター付きもある。

 ただ、いかんせん価格が価格であって、誰にでも使える機材にはなり得ないだろうが、他の照明具に比較すれば、抜きんでて太陽光に近い人工光源として、一般撮影から特殊撮影にも対応できることは、特筆しておいてよい。

佐藤泰司氏プロフィール 1939年、岩手県生まれ。電気工学および機械工学を修めた後、株式会社日立製作所に勤務。'84年、セリック株式会社を設立。黄綬褒章、科学技術庁長官賞、発明大賞笹川特別賞など、多数の受賞歴あり。
ブースター付きのソーラックス500W。
ストロボとは異なる形状のキセノンランプが見える。

始めに太陽光ありき

「写真用といっても、その多くは感光材料メーカーで太陽光の代わりとして使われています。最近では、デジタルカメラの開発にも数多く使われています。なにしろ、紫外線や赤外線までもが太陽光と同じ特性をもっているわけですから、いろいろな意味で光の基準になるのです。」

 もちろん、「ソーラックス」の用途は写真業界に限らない。美術館やギャラリー、デパートなど、見栄えを要求される場所はいうに及ばず、視覚効果を考慮しなければならない化粧品や食品や自動車など、ありとあらゆる製品の開発部門で活用されている。もちろん、耐光試験には必需品といってもよい。

 そして、ごく最近になって、まったく新しい効果が期待されるようになったという。

「単純にいえば、医療関係ということになるでしょうか? アトピー性皮膚炎や床ずれの治療などに効果があることが実証されたのです。」

 私には、その細かな理屈はわからない。しかし、かいつまんでいうなら「ソーラックス」の人工的な太陽光を患部に照射することで、アトピー性皮膚炎や床ずれの治癒が著しく早まるのだそうである。

「温熱効果のある赤外線ランプ、殺菌効果などのある紫外線ランプは、従来より医療の現場で使われていましたが、太陽光の全てのスペクトルをもつ光には細胞を活性化する力があるのですね。太陽光こそが、生命の源なのです。」

 と、ここにきてやっと、冒頭に述べた氏の音読が、素直に受け入れられる。

 しかし、もはや写真という枠では考えられないことも、確かな事実のようである。

太陽光と同じ分光特性にする特殊なフィルター。使用目的により各種あり。
定常光は、60~100パーセントの範囲で調光できる。
ブースターによる増光発光時間は1/60~4秒まで調整可能。
100Wのソーラックス。電源部を内蔵するモノブロック。
当然のことではあるが、分光特性も精確に測定されている。

思考の枠組みというもの

 氏の経歴をざっと目で追うと、訳のわからない単語が、いたるところに登場する。もちろん「ソーラックス」だって、ぱっと見た目には訳のわからない単語であろうが、それにしても、と思う。

 「魚類整列機」は、'85年に開発。これは、水揚げされた魚をコンベアーに載せる際に、魚の頭と尻尾を正しく並べ変える機械だそう。この開発により、従来10人以上必要だった手間が、一人で済むようになったとか。「魚類サイズ選別機」は、「魚類整列機」のアップグレード版といったもので、その名のとおりサイズ分けを行う。

 '86年に開発した「ミートクリーナー」は、豚肉の枝肉を運搬する際などに付着する汚れを除去する機械だそうで、なんとなくは掃除機を連想すればよい、とのこと。

 「車両ナンバー読み取り装置」は、'87年。まだまだ記憶に残るグリコ森永事件を機に開発されたものだそうで、幹線道路を通過する自動車のナンバーを記録、監視する。もしかするとお世話になった読者もいたりして。

 と、まあ、このあたりにしておくけれども、これら全て、佐藤氏の発案である。

 世に言う働き盛りである46歳をもって有名企業を退職し、新会社を興した氏には、ヤボな質問であるけれども、会社を辞めてよかったですか? と伺ってみたところ、

「大きな組織ではできない、いろいろなことができましたからね」

 とは、やはりヤボな質問であったというべきだろうか?

ポータブルタイプ。
工場内。
テクニカルセンターにある自家製スタジオ(?)。これも佐藤氏の発案。