ストロボ制御装置の開発で業界最先端を走るた『ケーエスケー』

会社概要

   「kako」という名の小型ストロボの会社として覚えている読者は、私よりも上の世代であろう。ケーエスケーとは、「カコ商事株式会社」の頭文字の略とか。超高速ストロボなど、やや特殊な撮影ジャンルに使われるアクセサリ類のメーカーとして知られる。また、OEM供給している大型ストロボの制御装置では、最先端のアイデアをマイコン制御を駆使することにより達成し続けている。(取材当時)

kakoの過去?

 およそ40年前の話である。西暦でいうなら60年代。昭和でいうなら35年頃。ついでにいうなら、私がこの世に生まれた頃の話。

 カメラもフィルムもまだまだ高嶺の花であったとはいえ、やっと一般庶民にも手が届き始めてきた時代。四畳半ほどのスペースで、まさに家内制手工業的にアマチュア向けの小型ストロボを作り始めたメーカーがあったという。P1を筆頭に、P2、P3と続く、いわゆるグリップタイプのストロボである。一台が数万円と、価格だけを聞けば現代の小型ストロボと同じレベルだが、当時の物価と比較するなら、かなり高価な代物である。おおざっぱに現在の価格に直すなら、10倍にしていいだろう。

 こうした価格にも関わらず、小型ストロボは一部マニアやプロを中心に使われ始め、やがてベストセラーの座を駆け登る。メーカーは、小型ストロボとしては国内初の量産体制を整え、全国シェア8割を超えるトップ企業に躍り出る。kakoというブランド名で知られた小型ストロボと、その会社の成功譚である。

 しかし、後から思えば、無理が重なったということになるのだろう。ほぼ10年後の70年に経営は行き詰まる。以後、日立コンデンサ(株)の写真用品部として事業は継続するも、83年には再び営業権をケーエスケーに売却・・・現在に至る。と、まあ、現在の日本の景気を鏡にするなら、ありがちな話になってしまおうか。

 ただ、実際に、当時「kakoは過去のもの」と競合メーカーに呼ばれた時代もあったという。笑い話にでもなればいいが、今、次は、誰の番か? などと考えると、やはり背筋は寒いのである。

最大15灯のモノブロック・ストロボを制御するコンピュータ・コントロール・システム。
遠藤達弥氏プロフィール
 開発部所属といえば控えめな表現。ケーエスケーの新製品の全てを考え、作り続けてきた一人である。1954年、青森県生まれ。OKI電気で各種電気製品の組み立て、設計などを担当した後、'81年に入社
ハイスピードストロボHS-22。
赤外フィルター、センサー、タイマーなどのアクセサリー

隙間の特殊性

 現在、ケーエスケーの製品として一番知られているのは、超高速ストロボだろう。HS-22のHSは、もちろんハイスピードの略。これは84年に開発されたもので、発光時間は2万2千分の一秒。しかも、こうした超高速発光にも関わらず、ガイドナンバー11の大光量。分かりやすくいうなら、当時のオートストロボ10台分を必要とした性能を一台で達成したものといっていい。もちろん、高速発光という特殊性においてだが。

「発光部を4分割したのが特徴ですね。大きなバケツ(コンデンサ)から水(電気)を出しよりは、数多い小さなコップから出したほうが早くなる原理です。」

 このストロボ以外に、赤外線や音声によってカメラのレリーズ操作やストロボの発光制御を行う各種のセンサスイッチも、ケーエスケーの代表的製品である。
 と、まあ、ここまでよい。ところが、取材当日に、机の上に並べてくださった歴代の独創的製品には、今、改めて欲しくなったものが少なくないのである。

「こっち側から、ずずーっと、今までの製品になっているわけ。」

 と、それぞれ説明してくださった製品のいくつかを紹介するなら、まず、HRシャッタ。HRはハイレスポンスの略で、レリーズ操作後、わずか3ミリ秒(3/1000秒)でレンズシャッターが開き始めるというもの。一般的な一眼レフでは数分の一秒、ハイエンド機でも数十分の一秒というオーダーであるから、その速さは凄まじい。

 それから、7灯までのストロボの多灯発光を制御するコントローラがあり、いくつもの小型ストロボを内蔵したボックス型の照明器具があり、光ファイバーを使ってスポット的に発光する装置などなど・・。

 ちょっと見に、いったい誰が使うのかと訝ってしまうけれども、しかし必要な人にとってはいくらお金を出してでも欲しくなるような製品群たち。
「とにかく、大企業がやらないようなことをやりませんとね。」

 と、氏はいうけれども、こうした製品を発想すること自体に、私は、氏の物づくりに対する独特の愉快を感じてしまう。

赤外・音声センサースイッチD-Ⅱ型。
カードを使ってストロボ発光制御を行うシステム。
現在は製造されていない、HRシャッター、ストロボ制御装置、光ファイバーユニット。
基盤の設計も氏が行う。

密かなる最先端

 とまれ、ここまでの製品は、いってみればアマチュア向け。もちろんプロだって使うけれども、基本的スタンスはそうなのである。しかし、実をいうと、多くのプロ写真家たちが使っている機材の奥には、ケーエスケーの技術と製品が隠されていたりする。

「知っている人は知っていますけどね。ほとんどOEMですから。」

 OEMといえば今やなじみ深い単語。オリジナル・エクイプメット・マニュファクチャリング。現代用語辞典によると、『相手先ブランドによる供給』とあり、『自社ブランドによる販売力が弱い場合には魅力的であるが、いかに高品質でも自社のブランド・イメージは高まらない。』とも。

 ただし、主にスタジオで用いられる大型ストロボの制御系に、マイコンを導入し、多灯を高精度に制御するシステムを構築したのは、誰よりも先に、遠藤氏なのである。

 一番始めのそれは、コンピュータ・コントロール・システムと呼ばれ、なんと電力コードを使って最大15灯のモノブロック・ストロボとコントローラー間の通信を行うという、画期的アイデアであった。今を逆上ること15年前の開発。しかし、結果的にいえば、早すぎた。モノブロック・ストロボは、ここ数年来やっとプロ写真家に多く使われだした機材の一つである。つまり、今こそ、必要とされるシステムではないか。

 これ以外に、カードやディスクを使ってストロボ制御データを管理するシステムも、氏の独創である。

「そもそも、写真撮影にはあまり関心はないのですけどね。プログラミングや回路設計などをやるのが楽しいのです。ちょうどプラモデルを作る子供と同じで、電池を入れて、スイッチをオンにした途端、動きだすのがうれしいのと同じ感覚でしょうか。」

 氏のプログラミングは、1010101といった数字の羅列であるアセンブラー言語からスタートしているとか。とんでもないところに、とんでもない人がいたものである。

この部屋からさまざまな新製品が誕生してきた。
歴代製品の取扱説明書。
氏が電子制御を学んだ「マイコン(マイクロコンピュータ)」
試作に使われた基盤。