『表現する家族アルバム』

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「写真集」という言葉の意味だけでいうと、写真を集めたもの(本/箱など)ですから、家族アルバムだって写真集の一つには違いありません。しかし通常、写真集を作ったとか、出版したというと、それなりの写真家の有名な写真を集めた本、あるいは写真展などのカタログを指します。

つまり、「写真集」という存在自体が「かの有名な写真家の作品でごさる」という具合のオーラを放っているわけです。ですから、とりわけ写真を真面目に鑑賞したり学ぼうとする人の目には、最初からそれは「かの有名な写真家の作品」として見る色メガネがかかっています。

しかし、よくよく見るとこの写真集は「写真家の家族アルバムじゃね?」と思える写真が並んでいるものがそれなりにあります。私、久門自身がもっている数少ない写真集の中にも、そう思えるものが何冊かあります。いや、「あるということに最近気づいた」といった方がいいわけで、そういう目でいくつかの写真集を見直してみると、あれもそうだし、これもそう。という具合に、芋ずる式にいろいろ出てきます。

そして、これらの写真集を「作品集」として鑑賞するのではなく、それを撮影しまとめた写真家の「家族アルバム」として見なおしてみると、写真家の家族関係、その家族をとりまく環境、そして写真そのものへの考え方の相違などが、視野に入ってきます。

とりあえず、手持ちの、一部図書館でお借りした写真集をここにまとめます。それぞれの写真集(家族アルバム)についての考察も加えていきたいと思ってはいますが、いつになるかは神のみぞ知るということで。

『わが愛 、陽子 Yoko My Love』荒木経惟

  朝日ソノラマ、1978

荒木さんと、妻陽子さんの新婚旅行の写真をまとめて自費出版した「センチメンタルな旅」を元に制作されたもの。二人がつきあいだしてから結婚式を挙げ、新婚旅行へ行き、新婚生活を送る写真で構成されています。

 

『10年後のセンチメンタルな旅』荒木経惟 陽子

  冬樹社、1982

荒木さんと陽子さんが、結婚十周年記念で1981年6月から1カ月にわたりパリ、スペイン、アルゼンチンを旅した二人の思い出集。もちろん写真は荒木さん、文章は陽子さん。どちらかというと、文章の方が少しボリュームがある感じ。

 

『愛しのチロ』荒木経惟

  平凡社、1990

荒木さんと陽子さんと愛猫チロの生活。陽子さんの病気の時期でもあり、荒木さんの手描きの文章が泣けるのです。今ほど猫ブームではなかった時代で、このサイズの写真集はブームで、いろんな出版社が出していました。実はこの本、アラキさん直筆のサイン入りです。

『芋っ子ヨッチャンの一生』影山光洋

  新潮社、1995

制作は1951年。敗戦直後。新聞社勤めのカメラマン影山光洋さん一家に、三男「よっちゃん」が誕生するが、苦しい生活の中、栄養失調により5歳で命を失う。職業もあったろうが、家族写真をたくさん撮影しており、ヨッチャンの一生を一冊の写真集にまとめ出版を希望するも、妻の気持ちを慮って断念。1995年、写真家になった次男と、写真関係者の思いによって出版されたもの。

『浅田家』浅田政志

赤々舎、2012

写真家の家族4人で、演出して撮影された家族の記念写真。『浅田家の記念写真は、みんなで休みを合わせて、場所を借りたり、服を決めたり、シーンをみんなで考えたりして写真を撮ります。それは自ら記念をつくっていく記念写真です。待っていてもなかなか来ない記念日を、写真を通じてつくりあげていく。写真には、きっかけになってもらったり、みんなをまとめてもらったり、一枚の映像として残してもらったり、いつもお世話になってばかりです。』

『おじいちゃん』マーク・ジュリー、ダン・ジュリー

春秋社、1990

81歳のおじいちゃんの若いころの写真も収められているが、主に、認知症になってから亡くなるまでの3週間にわたる家族の記録。おじいちゃんを支える二つの家族、そして孫。マーク・ジュリーはフォトライター(といっていいのかな?)、ダン・ジュリーはフリージャーナリスト。いつの時代でも、多くの家族にかかる大問題。今考えると、3週間は「幸福な短さ」でないかと思えてしまいます。

『PHOTOGRAPHS』EMMTE GOWIN

A LIGHT GALLERY BOOK、1976

現代アメリカを代表する写真家の一人。1941年バージニア州生まれ。「RISDでハリー・キャラハンに学び、彼の影響から家族の写真に集中して取り組むようになる。1967年頃フレデリック・ソマーに出会い、その写真観や洗練されたプリント技法に影響を受け(PGI)」、芸術品としてモノクロ・銀塩プリントが取引される写真作家。1964年に結婚。彼女とその家族の写真を撮り始めたのだそうで、この一冊には、その家族と自宅周辺の写真が収めれています。

『IMMEDIATE FAMILY』SALLY MANN

Aperture、1992

アメリカ、バージニア州レキシントン出身の写真家。「レキシントンの人里はなれた地方に夫と3人の子供ジェシー、エメット、バージニアと住み、自らの子供たちや米国南部の自然を大判カメラを使って撮影することで知られる。 1990年代に米国で最も人気のあった写真家のひとり」(wiki)。美しいモノクロ写真で、子どもたちも美形揃い(これがミソだと思う)。だが、児童ポルノや児童虐待を思わせる演出で、おおきな非難と論争を呼びました。よくよく見直したらサイン入り写真集でした。

『Le Passe Compose』JACQUES-HENRI LARTIGUE

Aperture、1992

1894年生まれ、 1986年没のフランスのアマチュア写真家。まったく仕事をしなくても生活できる貴族的な家庭に生まれ、子どものころに親から与えられた写真機で撮影に夢中になったという。自分の家族とその周辺の写真を、パノラマカメラやステレオカメラなどで撮影しているのだけれども、まあ、写している対象が対象で、まさにベルエポック(Belle Époque、仏:「良き時代」)を彷彿とさせるイメージばかり。日本人のファンも多いんですよね。

『a green part of the world』ANTHONY GREEN

THAMES AND HODSON、1984

1939年のイギリスの画家。絵画といえば、四角い画面を思い浮かべるのが普通ですが、とにかく変な多角形で、遠近感もおかしく、サイズは2mくらいある巨大な油絵(だと思う)です。扱っているテーマは、妻と自分自身、そして親族の日常生活。日常とはいっても、まあかなり贅沢で余裕のある生活ですが。