海苔から半導体まで!? 防湿庫のオリジナルブランド『東洋リビング』

    会社概要

      現・代表取締役である牛田唯一氏が1974年に設立。全自動防湿保管庫のオリジナルブランドであり、シェアは70%を超えるトップメーカーでもある。読者の多くには、カメラ・フィルム用防湿庫として知られているはずだが、最近では半導体デバイス用防湿庫が注目を浴びている。(取材当時)

それは海苔から始まった?

「私が小学生の頃ですね。父が自宅で防湿庫の開発を始めたのは。」

 と語るのは博彦氏。控えめに語るプロフィールを耳にしただけで、焼き餅の一つも焼きたくなるのは、きっと私だけではあるまい。が、話は防湿庫。

「もともと父は、根っからの技術者。東京理科大学の物理学科卒業ですし。卒業後は東芝で冷蔵庫の開発を行い、私が生まれる少し前に、ゼネラルという会社、今の富士通ゼネラルに転職。ここではエアコンの開発に携わったそうです。ユニークな発想をする技術者として知られた存在だったといいます。」

 とまあ、ますます焼き餅が増えそうである。

「そんな父が、防湿庫を思いついたのは寿司屋。職人が裸電球を使って湿気た海苔を乾燥させているのを見たのがきっかけで、海苔やせんべいを乾燥させたまま保存できる保管庫があれば売れると直感したのでしょう。」
 焼き餅ではなく、焼き海苔だったか。いや、これは冗談。

 しかし正直なところ海苔やせんべいの防湿庫。あれば便利かもしれないが、そうそう売れるものではないような気がする。少なくも、数万円もする防湿庫となれば、中に入れる海苔やせんべいは、これを上回る価格帯であって欲しい。しかし、それほど高価な海苔やせんべいを食した経験は、私にはない。見た記憶すらない。

「開発当初は、東芝から『カラットキーパー』という商品名で発売しました。今で言うOEMですね。テレビコマーシャルも大々的に行ったことがあって、数カ月のうちに2万台近く販売したこともあります。現在でも、通販用製品として扱っています。」

 世の中は、広い。というか、唯一氏が開発した電子ドライユニットを用いた防湿庫には、それだけオリジナリティに溢れた優秀さがあったのだ。

 

スケルトンタイプの新製品『マルチドライ』。
庫外から設定可能なデジタルシリーズの表示・設定部。

防湿庫秘話?

 食品用としてスタートした防湿庫『カラットキーパー』はその後、より高価なカメラ機材を保管するための防湿庫へと進化する。'82年には形状記憶合金を採用した『オートドライ』の製造販売を自社ブランドで開始。次第に販路は拡大し、事業は軌道に乗る。業務用ビッグサイズ、木調タイプ、湿度設定を外部から行えるデジタルタイプなど、次々に新しい製品も登場してきた。

 さらに現在では、楽器や骨董品などの保管用に加湿機能も加えた『アートドライ』や、半導体デバイス用として強力な除湿・防湿を可能にした『スーパードライ』シリーズも充実。博物館や美術館の他、大手家電製品メーカーを中心に海外への輸出も増加している。

「ここ数年の景気低迷で、やや鈍化していますが、昨年ドイツで開催された産業機械の展示会『プロダクトロニカ』でも、かなり注目されました。これからが、楽しみです。」

しかし、一見順調に見える社史だが、窮地に追い込まれた時期もあったという。そこには、特許に関わる落とし穴と、日本を含めた東南アジアのコピー産業の影響が深い影を落としている。

「およそ15、6年前のことですが、弊社の販売会社が分離し、同じような方式の防湿庫を独自で販売し始めたのです。全ての販売ルートを握られていましたから、本当に厳しい状況に陥りました。弊社の電子ドライユニットの特許に、言説的な抜け道があったことも災いしたようです。」

 さらに、この後も東南アジア諸国の会社が続々とコピー製品を続々と作りはじめる。現在確認できているだけで10社以上。コスト安を武器に、安価なコピー製品がかなり出回り始めたのである。

「防湿庫の心臓部である除湿ユニットにその差は歴然としているのです。弊社の方式は電子ドライユニットと呼ばれるタイプ。基本的には特殊な乾燥剤で湿気を吸収し、ICタイマーで制御されたヒーターで加熱、湿気を外気に放出する仕組みです。庫内外の空気の流れを切り換えるシャッターは、ヒーターの熱を感じて形状記憶合金で作動しています。シンプルな作りですが、これらによって高い信頼性を確保しているのです。」

 とにかくは故障知らず、電気代は1日1円という安さも魅力である。さらに、外気温に左右されずに湿度コントロールが可能。このため、乾燥のしすぎなどでカメラ機材内に使われているグリスなどが劣化することもない。また、内部で結露しないために、水分によるトラブルも皆無という。

 オリジナル製品の強さとは、価格だけではなく、こうした信頼性にこそ反映されるのであろう。窮地に陥ったのは、一時のこと。世界の半導体工場で要求される高度な技術と信頼性に裏打ちされたカメラ用機材であるため、数年後にはトップシェアの座に復活。現在でも、その座は揺るがない

内部に使用されている乾燥剤『ゼオライト』。
比較的小型タイプの電子ドライユニット。
電子ドライユニットの設定部。
販売台数の多いスペシャルライトシリーズには、新たにライトとミラーが追加されている
『スーパードライ(奥)』と特注品のマイクロフィルム用防湿庫(手前)。

日本の風土から世界へ

 カメラ機材の保管に防湿庫を用いるのは、主にカビ対策である。カビというのは、高温多湿の場所で発生することは常識だが、まさかそんな場所に保管した覚えのないレンズにさえカビが生じることもある。

 レンズに生じるカビは、一般にレンズカビと呼ばれているが、未だ多くの謎に包まれている。しかし大変興味深いことに、このカビが同定されたのは昭和初期、大槻虎男博士らの研究によるという事実。この研究は、東南アジアなどへ侵攻していた日本軍の工学兵器の劣化を回避するためのもので、つまりは軍の命令から始まったものだとか。カビによる被害の少ない西洋では、こうした研究そのものの必要性がなかったらしい。

 というわけで、カメラ用防湿庫は、生粋の日本生まれといってよいだろう。そして、世界のさまざまな場所で使われ始めているのだが・・・。

「父はカメラが趣味ではありませんので、美空ひばりさんのビデオと食品の保管、それからくつ箱がわりにも使っていましてねぇ」とは、少し笑える話である

楽器用防湿庫

外気温や湿度を変更しながら作動試験を行う。